キシリトールの世界的権威が語る! むし歯になりにくい方法とは?

キシリトール研究者 カウコ・マキネン氏(フィンランド トゥルク大学名誉教授)の近影
食事をするときの前提条件として、まずあげられるのは「歯の健康」だろう。“食べ物を噛める歯”を維持できないと、飲食物の摂取だけでなく、会話もままならなくなり、日常生活に大きな支障をきたすのは言うまでもない。

歯の病気として、すぐに思い浮かぶものに「むし歯」があるが、むし歯の原因をきちんと説明できる人は、あまり多くないのではないだろうか。

そこで、「むし歯」予防の代名詞かのようによく耳にする「キシリトール」の、う蝕予防効果を1975年に発見した、フィンランド トゥルク大学名誉教授のカウコ・マキネン氏に話を聞いてみた。

――フィンランド国内外で、キシリトールに関する臨床研究をされている、マキネン教授にお聞きします。基本的な質問になりますが、そもそも、むし歯の原因は何なのでしょうか?

口の中にいる細菌の一種に、ミュータンス菌がいます。この菌は、歯の表面や隙間に残った食べカスなどに含まれる糖分を栄養にしてプラーク(歯垢)をつくるのです。 ミュータンス菌は、プラークの中で糖を分解して酸を産生するのですが、 その酸によって、歯の表面のエナメル質が溶け出します。この状態を「脱灰」と言います。これが、むし歯の初期状態なのです。「脱灰」が長時間続くことで、歯に穴が開き「むし歯」になります。

――なるほど…。では、ミュータンス菌はどこからやってきて、どのタイミングで口の中に住むようになるのでしょうか?

ミュータンス菌は、元々口の中にいます。最初の感染経路としては、乳幼児期における母親からの母子伝播(でんぱ)や、他の家族からの感染が多いですね。

――母親から伝播するのであれば、生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、存在していないのでしょうか?

出産の際、産道を通ったときから、赤ちゃんの口の中に少量のミュータンス菌が存在しています。ミュータンス菌は、歯を温床にして育つので、歯が生える前に増えることはありません。歯が生え始める乳幼児期は“感染の窓”と言われていて、特に母子伝播によるミュータンス菌の感染に、注意が必要な時期です。

――口の中のミュータンス菌をなくす(ゼロにする)ことはできるのでしょうか?

口の中にいる細菌の一種なので、基本的には不可能です。理論上、ゼロにするためには口内を滅菌しなければならず、その場合は他の有用な口内細菌も死滅させてしまうことになります。

――不可能なのですね…。ではその前提で、歯の健康を保ちながら、むし歯を予防する方法があれば、教えてください。

毎日、歯ブラシを使った歯磨きをする。ふだんの食生活でなるべく砂糖の使用を控える。年に数回、定期的な歯科検診を受ける。日常的にキシリトール入りのガムを噛む。この四つのポイントに留意した生活を送ることが必要です。

――むし歯予防に“キシリトール”がいいと聞くのですが、具体的に、どういったメリットがあるのでしょうか?

キシリトールのメリットは五つあります。まず一つ目は、酸をつくらないこと。むし歯の主な原因となるミュータンス菌は、食べカスなどから歯垢(プラーク)をつくり、そこに糖を取り込んで、むし歯の原因となる酸をつくりますが、キシリトールを摂取することで、ミュータンス菌が糖を取り込んでも、酸をつくれなくなります。

二つ目は、ミュータンス菌の抑制です。キシリトールは、ミュータンス菌内に取り込まれても代謝経路に入らないため、ミュータンス菌のエネルギーを消耗させるだけでなく、ミュータンス菌の糖代謝そのものを阻害し、ミュータンス菌の活動を抑制するのです。

三つ目は、歯垢の抑制です。歯垢をつくり出すミュータンス菌の活動を抑制することで、歯垢を抑制するのです。続いて、四つ目は、唾液分泌の促進です。キシリトールは砂糖と同じ甘味を持つため、口腔内に入れると味覚が刺激され、唾液の分泌を促進します。

最後の五つ目は、再石灰化の促進です。酸によって歯が溶け出した(脱灰)際に、キシリトールはカルシウムレベルを上げて、再石灰化を促進するのです。

――五つもメリットがあったとは、知りませんでした。だから、キシリトール入りのガムなどが発売されているのですね。

――ダイエット(食事制限)をしている方に向けた、アドバイスなどはありますか?

ダイエット中は唾液が減ることが多いので、むし歯のリスクが増えます。唾液は、口内環境を整えるのに最適な水分のため、ガムを噛むなどして、唾液を分泌させ、歯を保護することが大切になります。とはいえ、砂糖はむし歯の原因となるので、砂糖入りのガムではなく、キシリトール配合のガムを定期的に噛むことが重要です。

――最後になりますが、絶対にむし歯にならない方法はあるのでしょうか?

残念ながら、存在しません。ミュータンス菌が全くない人はいないのです。むし歯にならないようにするには、乳幼児期から母子伝播に注意し、キシリトールをうまく用いて超初期予防を行うことが重要です。

乳幼児期ではなく、乳歯が生え換わった後や成人した後から、むし歯予防を行う場合も、もちろん効果はあります。ですが、喫煙と同じで、口内環境の蓄積があるため、乳幼児期から予防を始めるのが効果的でしょう。

また、むし歯予防の基本となる「歯磨き」についても、してさえいればむし歯を予防できるわけではありません。正しいやり方で行うことが重要です。歯には五つの面があるので、ひとつの面だけを磨くのではなく、五つの面すべてを磨くことが必要なのです。ただし、歯磨きをし過ぎると、エナメル質が削れて逆効果になることもあるので注意してください。

――赤ちゃんのころからキシリトールを使ってむし歯予防を始め、正しいやり方で歯を磨くことが、大切なのですね。教えていただき、ありがとうございました。
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